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当日、俺はいつものように自転車にまたがり、少し肌寒い風を受けながら現地に向かったのだが、
待ち合わせ場所の例の公園に着いた時には、長門はすでに、まるで備え付けの人形の様に静かにベンチに座っていた。
指定時間には間に合っていたはずだが、どうやら少々待たせてしまったらしい。


「すまん長門、待たせたか?」

「……」

長門は無言でコクリと頷いた。
どの位待たせちまったんだろう?時間に遅れて来たわけではないが、こいつが待機していたのは事実だ。申し訳ない事をしちまった。
しばらく沈黙していた長門は機械仕掛けの様な動きでゆっくりとこちらに顔を向け、抑揚の無い無機質な声を発した。

「座って……」

直角定規のように姿勢良くベンチに腰掛けている長門の隣に座った俺は、今一度 心構えを整えた。
いつもより長門の表情が神妙に見えるのは気のせいではないだろう。
さて、これからお前はどんな事を俺に告げるんだ?
出来る事ならあまりハードな内容でない事を祈ってるぞ。

「長門、前置きはお前も面倒だろうから いきなり核心からたずねるんだが、
休日にお前がわざわざ俺を呼び出したって事は つまり、ハルヒの奴がまた何かやらかしたんだな?」

そう、長門が俺を呼び出す理由なんて他に無いだろう。万が一にもデートのお誘いなんて事は有りえんだろうしな。

もし俺が一般的な高校生だとしよう。その場合、美少女に借りた本に 誘いの手紙が挟んであったなら、これはもう飛び跳ねて喜ぶだろうよ。
遠足前日の小学生のように、昨晩は興奮のあまり熟睡できなかったに違いない。
だが不本意ながら、俺は一般的な高校生とは言いがたい人生を歩んじまってる。俺に届く女子の手紙なんて、ろくな内容ではないのが現実だ。
朝倉涼子の時は殺されかけるし、朝比奈さん(大)の時は閉鎖空間に閉じ込められるし……本当にろくな事がない。
ちなみにそんな俺の青春はどんな色をしてるんだ?まあ、薔薇色でないことだけは確かだぜ。

「で、ハルヒの奴、今度は何をしでかしたんだ?」

長門はいつもにも増して機械的な口調で俺に返答した。

「現時点では…まだ何も起こっていない」

「そうなのか?そりゃあ何よりだ」

だがまて、安心するにはまだ早いぞ、俺。

「現時点では――てことは、これから何かが起こるのか?」

「そう」

やっぱりだ。これだから安心なんて おいそれとするものじゃない。
何が起こるのかは知らんが、十中八九厄介な事なんだろうってのは想像できるぞ。

「どんな事が起こるっていうんだ?」

「具体的にどのような事象が起こるかは不明。だが、その際、おそらく大規模な情報爆発が観測される」

…大規模な情報爆発ときたもんだ。ちくしょう、思った通りハードな内容だぜ。
桜が狂い咲いたり、神社の鳩の体色が変わるって程度の軽い規模の話では無さそうだ。
ハルヒの奴、今回は一体何をやらかそうとしてるんだ?考えただけで胃が痛くなっちまうぞ。たまには胃に優しいハッピーな現象でも起こしてくれないものか。

「その大規模な情報爆発とやらが起こっちまったら、やはりこの世界はどうにかなっちまうのか?」

「詳細は不明。しかし、この時空に大きな変革がもたらされるはず。この星の安全は保障出来ない」

やれやれ。予想以上に物騒な話だ。地球が捻じ曲がるとでも言うのか?
だが、まて…確かに物騒な話ではあるが、現時点ではまだ何も起こっていないのなら、予防の余地が残されてるって事だよな?
なるほど、今日の長門の用件は、その予防に関する事ってわけか。

「あなたの協力が必要」

俺なんかに何が協力出来るのかは知らんが、他ならぬ長門のたのみだ。いや、それ以前におそらく世界の危機なんだ。協力要請を断る理由はない。
そもそも今日の俺はある程度腹をくくって来てるんだぜ。俺が協力する事でハルヒのとんでもない暴走が阻止出来るのなら、何でもしてやろうじゃないか。

「わかった、何でも言ってくれ。協力するぞ」

「…感謝する」

それにしても今日の長門はいつも以上に異常なまでに冷静だ。世界のピンチに微塵も動じていないらしい。心臓が鉄で出来てそうな落ち着きようだ。うらやましい。

「で、俺は何をすればいい?要するにハルヒがそれをおっ始める前に、何か対策を講じればいいんだよな?」

「対策を講じる必要は無い」

「え?」

必要無いってどういう事だ?たった今『あなたの協力が必要』と言われたと俺は記憶しているぞ?
数秒前の記憶すら間違えるほどに俺の脳はいよいよ壊れてきたのか?いやいや、確かに協力してくれと言われたはずだ。

「いや、何をするのかは知らんが俺が協力する事で、ハルヒの力の発動を阻止するって事なんだろ?」

「力の発動を阻止する必要は無い」

なんだ?長門は何を言ってるんだ?なんだか良くわからんぞ…協力してくれと言いながら、ハルヒを止める必要が無いって、さっぱりわからん。
禅問答でもしているつもりなのか長門。悪いが俺にそんな高等な技を求められても、ご期待に沿える自信はないぞ。

「すまんが長門、頭の悪い俺にも分かる様に説明してくれないか?」

「私はあなたに協力を要請したが、涼宮ハルヒが持つ力の発動を阻止してほしいとは発言していない」

「ま、益々わけが分からんのだが…?」

「阻止するのではなく、情報爆発を誘発してほしい」

「なんだって?」

「だから…協力して」

「お前の言う協力ってのは、ハルヒを止めるためのものじゃなく、ハルヒを挑発するためのものって事か?」

何を言い出すんだ長門のやつ…ハルヒを挑発してどうするんだ。大規模な情報爆発が起こるんだろ?地球が捻じ曲がってもおかしくない程のピンチなんじゃないのか?

「ちょっと待て、俺たちは今まで力を合わせて、それこそ必死でハルヒの引き起こした事件を処理したり、未然に防いで来たじゃないか。ちがうか?
それなのに今回はそれを防ぐどころか事もあろうに誘発しろっていうのか?」

「そう」

「そんな事をしたら世界が破滅するかもしれないんだよな?」

「破滅するかもしれない」

何で長門はそんな恐ろしい事を淡々と語れるんだ?時空改変の時のように調子がおかしくなっちまったのかよ。

「お前頭がおかしくなったのか?誘発なんて出来るわけないだろう」

「あなたを使えば可能」

俺を使う…だと?
ちょっとまってくれ、冷静に順序立てて考えよう。
馬鹿な俺でも冷静に考えれば、この妙な違和感の正体が掴める筈だ。
ハルヒが力を発動し、その結果、大規模な情報爆発が起こる――と長門は言った。だが今現在は何も起こっていないという…
そう、今は何も起こっていないんだ。平常時だ。結構な事じゃないか。
この平常時を維持するために、古泉や朝比奈さんはハルヒのご機嫌を取り、日常に飽きさせない様イベントを仕込み、日々尽力してる訳だ。
間違ってハルヒの力が発動した場合、そんな有事の際はそれこそSOS団は一丸となって世界の正常化に全力を注いでいる。
古泉は閉鎖空間と日夜格闘し、長門は情報操作を駆使し、朝比奈さん(大)まで登場して下さる。俺なんかキスまで捧げたんだぞ?
平常時も有事の際も、今まで俺たちはハルヒの力を何とか制御する事に最大限努めてきたんだ。
それなのに長門は今回、ハルヒの力を誘発して欲しいという。俺たちがしてきた事と正反対のご要望だ。
そんな事をして誰が喜ぶってんだ?
まあ、喜ぶ奴も居ないではないがな。
…なるほど、何となく分かってきたぞ……そういうことか。

「なあ、長門」

「なに?」

「俺が協力出来る事ってのが何の事だか分かったよ」

「……」

「多分当たってると思うのだが、もしかして俺が…死ねばいいのか?」

「そう」

「やはりそうか…」

「これ以上涼宮ハルヒの観察を続けても、停滞を重ねるだけ。今のまま変化が無いなら強行に変革を進めるべき。
何も変化しない観察対象には大きな刺激を与えるべき。だから、あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る。
協力して欲しい。だから……死んで」

「何処かで聞いたような台詞だな。お前いつから派閥を変えたんだ?それはたしか急進派の考え方じゃなかったか?」

「あなたが死ねば、必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こすと考えられる。私は急速な変革を望んでいる。
主流派に属していてはそれは望めない。だから私は急進派に転向した」

「やけにあっさりと転向したもんだな。何百年も観察に徹していたお前の台詞とは思えんぞ」

俺はベンチから立ち上がり、少しずつ後ずさりしながら長門と距離をとった。
座っていた長門もその場で立ち上がり、俺たちは向かい合わせの状態で会話を続けた。

「悪いがな長門、さっきの返事は撤回する。今回ばかりはそのご要望には応えられそうに無い」

「なぜ?」

「なぜってお前、俺まだ死にたくないからだよ。お前らには死の概念は理解できないかもしれんが」

「では、交渉決裂?」

「そうなるな」

「どうしても?」

「俺は長門のたのみなら大抵の事は聞き入れてみせる自信があるさ。だが、お前のたのみを聞いてやる義理は無いよ」

「……」

「だってよ、お前は長門じゃないんだからな」

そう、こいつが長門なわけがない。何かおかしいと思ってたよ。仕草も振る舞いも最近の長門とは違っていた。
おおかた急進派とやらが長門に化けて、俺を誘い出して殺しちまおうって考えたんだろう。
見抜けないと思ったか?俺を甘く見たな。
俺は何も誇れるものはない下らん人間かもしれないが、こと長門の事となるとちょっとしたエキスパートなんだぜ?
あいつの表情や仕草なら、世界中の誰よりも敏感に察知出来る自信があるんだ。
もし、長門の読心を競う世界大会があったなら、金メダルは俺のものだ。もちろんそんな大会が催される事なんてあるわけないのだが……

「なぜ……?あなたがなぜ私の正体に気づいたのか教えて欲しい。
私はパーソナルネーム長門有希の複製データで構成されたインターフェース。オリジナルとの差異は皆無なはず・・・」

「じゃあ今度からは、その複製用のデータベースに『感情』ってのを付け加えておくんだな。
もっとも、お前らにとってのそれは『エラー』と呼ばれるジャンク情報だったっけな」

「感情?」

「ああそうだ。お前にはそれが無い。
俺の長門は間違ってもハルヒの心をもてあそんだり、俺をエサにしたりはしないんだよ。覚えとくんだな。
間違っても『あなたを使えば』なんて言葉は使わんぞ?その言葉は俺を道具としか見ていない奴の台詞だ。
さっきお前と会った瞬間から少しおかしいとは思ってたよ。
俺が遅れて到着し『すまん長門、待たせたか?』と言った時、お前は無言で頷いてたよな。
長門ならそんな時、たとえ何時間待っていようが『問題ない』とか言って俺に気を遣ってくれるだろうな。
時間を掛けて育んできた俺と長門の絆をナメてもらっては困る」

「そんなにオリジナルと私は違う?」

「ちがうな。全然違う。お前は所詮コピーだよ」

「そう…」

長門のコピーは納得出来ない様子で、しばらく呆然と立ち尽くしているようだった。
奴らの概念では理解出来ないのだろう。
長門の構成データをそのまま再現したはずなのに俺みたいな只の人間にバレちまったんだから動揺するのも無理もない。

「……あなたが私の正体を見抜く事は想定外だった。だが、問題ない。同意を得られなかった事は残念であるが、その場合、強行するだけ」

死んでくれなんて言われて同意する人間なんて滅多にいないと思うぞ。

「これより、予定任務を強行モードで遂行する」

突然、公園の景色が変貌しやがった。木々や照明やベンチの姿は消え去り、
数色の絵の具をぶちまけたような妙なカラーで構成されたサイバー空間に周囲が包囲されたようだ。
ついでにさっきまで落ちていた木の小枝がサバイバルナイフの形に変化し、長門のコピーの右手に収まった。

「ああ、知ってるぞこれ。たしか情報制御空間だったか?ここではお前が絶対神なんだろ?」

「そう。あなたがこの状況から逃れるすべは無い。あとは死ぬだけ」

「確かに俺も正体を見破っただけで、お前に勝ったなんて思ってないよ。何しろ俺は只の人間だからな。間違ってもお前みたいな奴に勝てるわけが無い」

「ではなぜ・・・?あなたが現在平常心を維持している理由が私には解析できない。」

「そりゃそうだろうな。俺にも良くわからん。朝倉涼子に殺されそうになった時はあれほど狼狽してたんだがな。
だが、ひとつだけこの平常心に根拠があるとすれば、以前聞いた言葉のせいだろうな」

「以前聞いた言葉?」

「ああ、そうだよ。あの時の言葉だ……」















「長門が言ってくれたあの言葉が、こんな状況の俺に冷静さをくれているんだと思うぞ」

「そう……でも無駄。オリジナルは現在、自宅から外出する事が出来ない。彼女の部屋の時空間は完璧にブロック制御してある。
彼女の能力を駆使しても、プロテクト解除にあと6時間を必要とする」

「籠の中の鳥ってことか?じゃあ、長門は無事でいるんだな?」

「無事。彼女と直接交戦しても相打ちにしかならない。よって、時空間情報操作による対象者拘束という手段を選択した」

「まあ、長門が無事ならそれでいい」

「でも、あなたを助けに来る事は不可能」

「そうかもな。だが、それでも最後まであいつの言葉を信じてみるよ」

「信じる?」

「ああ。信頼って奴だ。お前にはわからんだろうがな」

「確かに分からない。理解……不能」

長門のコピーはそう言うと、見えない力で俺の身体の自由を奪い、立像のように固まって動けない俺に向かって高速で踏み込んできた。
一瞬で二人の間合いは詰まり、ナイフを持った右手が俺の顔面に向けて放たれた。次の瞬間、視界に素早く人影が割り込んできた。
俺の鼻先まで届いたナイフを寸前で鷲掴みにし、相手の動きを制したその人影の正体は、紛れもなく長門だった。そう、俺の知ってるあの”本当の長門”だ。

「待たせた?」

細くやさしいいつもの声が心地よく耳に入ってきた。

「いや、問題ない。思ってたより早いくらいだぜ」

「そう」

「また面倒を掛けちまったな?長門」

「問題ない。あなたが無事ならそれでいい」

そう、俺の知ってる本当の長門って奴は、こういう気の利いた台詞を最近は言うんだぜ?覚えておけ長門モドキ。

「あとは私の仕事。まかせて」

長門はそう言うと、俺の身体を自由にし、数メートル後方へ逃がしてくれた。
俺はその場で状況を静観するしかない様だ。前方に見えるのは、同じ外見を持つ二人の長門の姿だ。まるで鏡の様に向き合っている。
やがて二人は、サーカスの曲芸の様なめまぐるしい交戦を始めた。この妙な空間を目一杯使い、上へ下へと跳び回り、時折空中で交差している。
二人の美しい少女が奏でるその舞は芸術的でさえあり、まるで何かのショーを観賞している錯覚に陥る。不思議と俺に緊張感は差ほど無かった。

全く同じ能力を持つ二人の交戦は当然ながら均衡しているように見える。
一瞬訪れた戦いの合間を利用して、長門のコピーが本物の長門に向けて問いかけた。

「なぜ?あなたの部屋は綿密にブロックしていたはず。短時間での脱出は不可能。この空間も同様。容易に進入出来ないはず……」

長門は凛とした佇まいでコピーに向けて言葉を返した。

「コピーのあなたには無いものを私は持っている。だから、あなたは私には勝てない」

その言葉通り、次第に長門が優勢になり、コピーの動きを圧倒して行く。
格闘技の類に全く頓着の無い俺が見ても、明らかに優劣が分かるほど力量の差が歴然となった頃、
長門は例によって呪文の様な言葉を唱えた後、決め台詞をつぶやいた。

「終わった。これより、敵性対象の有機情報連結を解除する」

コピーの足元が光の砂のようにサラサラと崩れはじめた。
足元から上部へとその砂は徐々に昇ってゆく。いつか見た朝倉涼子の時と同じだ。
胸部から上を残すのみとなったコピーが、最期に問いかけている。

「最期に教えて欲しい。私の構成情報はあなたと同様のはず。なぜ、あなたが優勢だったのか……あなたにしかない物とは何?」

この質問には俺も興味がある。二人の違いといえば俺が言ったとおり『感情』の有無だろう。
確かに俺の長門はコピーなんかより人間らしく、感情が備わっている事は確かだ。
だがそれは心の部分の差異であり、身体能力や情報操作能力の優劣とは関係ないはずなのだ。
にもかかわらず、同じデータで構成された二人に、圧倒的な能力の差が生じていた……全く持って不思議である。是非とも答えを聞いてみたい。
しかし長門は、コピーに対して答えとは言いがたい抽象的な回答をした。

「有機生命体特有の概念を短時間で説明する事は不可能。あなたがもし再構成される機会があれば、理解出来る時が来るかも知れない」

「そう……」

最期にコピーは、さすが長門の複製とも言うべき短い発声を残し、その姿を消して逝った。
同時にこの辺り一帯が元の見慣れた公園に立ち返り、事の解決を再確認させてくれた……


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俺と長門は自然とベンチに二人揃って座り、一息ついた。

「ありがとうな、長門。大丈夫だったか?」

「大丈夫」

「今回俺は不思議と取り乱す事はなかったぞ」

「なぜ?」

「多分、お前のお陰だ」

こうして本当の長門と居ると、やはり複製品とは明らかに違う何か安らぎに似た感覚を覚える。
いつも面倒を掛けているのに、あっけらかんとしたお前を見てると何だか安心してしまうぞ。

「なあ、長門、一つ聞いていいか?」

「なに?」

「さっきあのコピーが聞いてた事、俺も興味があるんだが?」

「私が優勢だった理由?」

「ああ。お前と同じ情報で構築されてるなら、あいつとお前の能力は同じはずだと俺も思うのだが…
あいつが持ってなくて、お前が持ってるものって何の事だったんだ?」

「それは…友達」

「友達?」

「そう。私が部屋に幽閉されていた時、私は涼宮ハルヒに電話をした」

「ハルヒに?」

「そう」

「で、なんて言ったんだ?」

「どうしても負けられない相手がいる。私を応援して欲しい。私の勝利を願って欲しい」

「それだけか?」

「それだけ」

「で、試しに部屋から出たら簡単に出られたとか?」

「そう。簡単に出られた」

「ハハ・・全く、ハルヒらしいな。あいつの反則パワーが原因だったのか」

「涼宮ハルヒは私の言葉を受け止めてくれた。ちゃんと願ってくれた」

「そうか…確かに友達だな」

「そう、友達」

友情がくれた勝利か…そう、そうなんだ。
友情やら、愛情やら、根性やら、この世界ではベタすぎて こっ恥ずかしい様な感情が、結局は大事な事なんだ。
これは決してエラーなんかじゃないぞ?長門、お前はこれからも存分にその大切なエラーをその胸に貯めていくんだぞ…


「長門」

「なに?」

「これからどうする?解散するか?それとも、せっかくの休日だ、デートでもしてみるか?」

「……」

「どっちがいい?」

「……デートを希望する」




少し肌寒い風の吹く中、俺たちは二人、普段よりも少しだけ接近して歩いた。




『長門の転向』
--- END ---